釣り銭出ない、高額請求…コインパーキングのワナ

旅行に行きたくなるようなすがすがしい季節。ドライブを計画する人も多くなるが、外出先で困るのがクルマを止める場所。時間貸しのコインパーキングは便利な存在だが、料金表示がわかりにくく、思った以上の料金を請求されたことはないだろうか。

■おつりが出ない券売機

 10月下旬、千葉県北部の新興住宅街に行った時のこと。1日400円、前払いの看板がかかる無人のコインパーキングにクルマを止めて、チケットを買うため券売機に500円玉を入れた。あれっ?おつりの100円が出てこない。

 券売機の下の方にコールセンターの電話番号が書いてあったので、早速、電話をかけてみると、女性の担当者が出てきた。

 ――あの、お釣りが出てこないのですが。

 「お客様は今、どちらの駐車場をご利用ですか。ああ、そちらでしたら、お釣りは出ない機械になっております。その旨が表示されているはずですが」

 券売機をもう一度みると、確かに「釣り銭は出ません」と書いてある。じっくり見たら、釣り銭の返却口もない。

 ――ちょっとこれ、ひどくないですか。どうしてこんな機械なんですか。

 「お札を使わない少額料金の駐車場はそうなっておりまして」

 ――少額の缶ジュースの自販機だって釣り銭は出てきますよ。それに、投入して下さいって書いてあるところに500円のコインのマークが付いてるじゃないですか。料金が400円なのに、なんで500円玉が入るんですか。

 

 「それは2日間とか3日間とか利用されるお客様向けです」

 

 ――じゃあ、私の100円はどうなってしまったのですか。

 

 「機械が飲み込んでしまいましたね……」

 

 実にあっけらかんとした答え。申し訳ないという気持ちもなければ、返金する意思も全くないようだ。その場では「そういうものか」と電話を切ったが、やはり釈然としない。こんなコインパーキングは例外的で、運が悪かったとあきらめるべきなのだろうか。国民生活センターに話を聞いてみると、そうではなかった。コインパーキング関連の表示を巡る相談件数は増加の一途をたどっている。2012年度は243件で、10年前の03年度に比べ約10倍になったというのだ。

さらに同センターが先月まとめたコインパーキングの表示に関する資料をみると、以下のような「少額だからしょうがない」では済まないような事例が並ぶ。

 

60代女性 「1日最大500円」と表示された看板を見てコインパーキングを5日間利用したところ、8700円を請求された。業者は「入庫後1回のみ1日500円で、その後は1時間につき100円かかる」と説明。利用規約が自動販売機の裏のわかりにくい場所に掲示されていた。

 

 20代男性 「最大料金900円」「24時」との表示があったコインパーキングに、午後9時から翌日午後6時半まで駐車した。「1000円札で間に合う」と思ったが、3400円を請求された。業者は「最大料金は入庫当日の24時、つまり深夜0時までで、それを過ぎたら適用されない」と話した。看板に書いてあるというが、暗い夜の運転席からはよく確認できなかった。

 

 企業のリスクマネジメントや消費者対応に詳しいアサミ経営法律事務所(東京・千代田)の浅見隆行弁護士によると、数日の駐車でクルマにチェーンをかけられ10万円以上を請求された、という事例もあるという。

こうしたトラブルの原因が「1日最大1000円」といった看板の表示だ。一般消費者の感覚では、1日1000円なら、2日で2000円、3日で3000円と思うが、これが間違い。1000円で済むのは初日だけで、それ以降は1時間当たり(場合によっては10分当たり)の料金を青天井で課されることがある。

 パーキング業界ではこうした料金設定を「打ち切り」「打ち止め」などと呼ぶ。リーズナブルな料金は1日で打ち切り、という意味合いからだ。何日も駐車されるのを避けるための仕組みで、もともとはスーパーなどの駐車場で採用されていたが、その後、回転率を高めたい事業者側の意向で都市部でも広がった。ちなみに、1日1000円、2日2000円、3日3000円のような設定は「繰り返し」と呼び、地方の駅前駐車場などでは今も一般的だ。

さらに、1日の部分を「24時」と表示し深夜0時を過ぎた時点でリーズナブルな料金の設定を打ち切るケースや、看板を電信柱や雑木で見にくくして利用者を呼び込むような、引っかけの合わせ技もある。

 例えば、東京・足立区の繁華街。人通りが多い細道をクルマで進むと右手に「P 100円 24時間営業」の看板(写真1)が目に飛び込んでくる。おっ、安いと思ってハンドルを切って駐車場に入ると、そこには別の看板が……(写真2)。ここで初めて100円とは昼間の15分間の料金だと分かる。しかも「打ち止め」で、夜間の料金はどれだけ高額になるか精算の時まで分からないのだ。

表示の見落としや誤解はすべて利用者の責任になるのか。著しく誤解を与える表示で損をした者は、その製品・サービス提供企業に対し、景品表示法消費者契約法違反を問える可能性があるというのが専門家の見解だが、金額が比較的小さいことから「弁護士への相談費用や時間を考えると、払った方がいいと考える利用者は多いだろう」(浅見弁護士)

■市場は拡大、悪徳業者は野放し

 

 有料駐車場ビジネスは実は成長産業だ。業界団体の日本パーキングビジネス協会(東京・中央)が集計した2011年の市場規模は2300億円程度(一部推計)。駐車スペースの総数は43万台分で、07年から年平均4.5%で増加している。

 

 市場拡大には、08年のリーマン・ショックから昨年までの景気低迷が影響しているもようだ。企業が事業を広げるために土地を用意したが、予定していた銀行からの融資が受けられず、遊休資産になった。あるいは、親から相続した土地を兄弟で分けるために現金化しようと思ったが、不動産市況が悪く、思うような値段で売れない。こうした事情から「空き地にしておくよりは収入を得られる駐車場運営の方がお得」と考える土地所有者が主に都市部で増加しているという。「マンションなどを建てるよりも初期投資は少なく、ハードルが低い側面もある」(三井不動産リアルティの岡村光浩リパーク事業本部事業推進部長)。

 

 さらに、出費を抑えたいという利用者ニーズも後押ししている。クルマ通勤をやめて、職場の近くの月決め駐車場を解約し、必要なときだけクルマで通勤しコインパーキングに止めるといった利用形態が増えているようだ。

 

 市場が拡大しているのであれば、なおのこと、ビジネスに透明性が求められるはずだ。行政はどのように考えているのか。消費者庁に聞くと「これまで駐車場の業者に対して行政処分をしたことはない。ただ、取引条件が有利でないにもかかわらず、有利と表示しているような事例には、景品表示法違反の可能性があるので対処していく」(表示対策課)。

 

 表示ではなく駐車スペースそのものを届け出で規制する法律として「駐車場法」があるが、これはスペースが500平方メートル以上でないと対象にならない。国土交通省によると「届け出を受けるのは地方自治体で国には(規制の)権限はない」「駐車場の構造が違反というならわかりやすいが、看板表示は何が妥当かという物差しは持っていない」(街路交通施設課)

 

 つまり、建物が密集した都心部などで目立つ十数台規模の駐車場は明確な法の縛りがなく、監督官庁もはっきりせず、実質的に野放しの状況なのだ。

■自己浄化に動き出した業界

 

 

 
 
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 だがこのままでは、一部の業者のせいで、コインパーキング業界全体のイメージが悪化し、利用者離れにつながりかねない。日本パーキングビジネス協会の和島由尚事務局長は「誤解が生じる表現も一部あったと思う。わかりやすくするのが運営会社の務めだ」と反省しきり。近く表示検討委員会(仮称)を立ち上げ、利用者の誤解を生む表示の撲滅に取り組むという。「来年秋をめどに表示の指針を示したい」(和島事務局長)

 

 

 透明性を売り物にする業者も出てきた。業界大手のパーク24は、料金表示の仕方について社内マニュアルをもうけ、統一感が出るように工夫しているほか、スマートフォンで駐車場ごとの利用料金を確認できるアプリも用意しているという。

 

 こうした業者側の取り組みの充実に期待したいところだが、利用者側もまずは「しっかり表示を見る」ことを徹底する必要がある。パーキングの良しあしを見分ける判断基準になるのは、まずは看板の表示。「道路や車の中から読めるかがポイント」(浅見弁護士)で、障害物などで看板が隠れているところは避けた方がいい。必要以上に長居しないのはもちろんだが、数日間利用する場合は最低限、「打ち切り」か「繰り返し」かを確認したほうがいいだろう。

 

(諸富聡、皆上晃一、石塚史人)

日本経済新聞より引用しました。