臨床試験:第三者の監査義務付けへ バルサルタン疑惑受け

降圧剤バルサルタン(商品名ディオバン)の臨床試験疑惑を受け、厚生労働省は26日、臨床試験を巡る不正を防止するため、研究責任者に対し、第三者による監査を受けるよう義務付ける方針を明らかにした。臨床試験のうち、新薬の製造・販売承認を受けるための「治験」には、薬事法に基づく監査などの規制がある。だが、バルサルタンを巡る一連の試験は、治験を経て薬の販売が始まってから行われたため、実効性ある規制が無く、このことが製薬会社の不透明な関与やデータ操作などの不正を生んだ一因と指摘されていた。

 臨床研究と疫学研究の倫理指針の見直しと統合作業を進める国の有識者会議が26日に東京都内であり、厚労省がこれまでの有識者会議の議論を踏まえて新指針案を示した。新指針は3月中にまとめられる。

 新指針案では、薬や医療機器の有効性や安全性を調べる目的で臨床試験を実施する責任者に対し、当初の計画通りに研究が進んでいるかの監査や、分析に使うデータとカルテとに食い違いはないかなどのモニタリングを受けるよう求めた。費用や事務的な負担が増すことを理由に導入に慎重な意見もあるが、厚労省は不正防止効果に加え、臨床試験に協力する患者保護の観点からも義務化が必要と判断した。

 また、バルサルタン疑惑では製薬企業ノバルティスファーマによる臨床試験への不透明な関与が問題となった。このため、薬の効果を確かめることなど研究テーマが企業活動に関係する場合、研究実施の可否を審査する倫理委員会への申請書類で、企業との利害関係を明記することも求めた。倫理委員会にこうした研究者と企業の利害関係も審査してもらう。

 新指針では、後から検証できるよう、臨床試験で使ったデータを研究終了から最低5年間保存させることを既に決めている。

 一方、指針に罰則は無く、バルサルタン疑惑の解明に取り組んできた別の厚労省の検討会は、国に新たな法規制の是非を検討するよう求めており、厚労省はこの点についても近く議論を始める。

国内外の臨床試験の制度に詳しい藤原康弘・国立がん研究センター企画戦略局長は「バルサルタン疑惑のような問題を防ぎ、データの正確さを保証するためにも監査やモニタリングは必要だ。既に欧米では治験以外の臨床試験でも求められている。研究機関による監査などに実効性を持たせるために、国は人材や財源をしっかり手当てすることが必要だ」と話している。【八田浩輔、河内敏康】

 

毎日新聞より引用しました。