ネット選挙がイマイチ盛り上がっていない理由とは?

まもなく投票日を迎える夏の参院選。ついにインターネットを利用した選挙運動が解禁され、ネット特有の罵詈雑言やネガティブキャンペーンなどが入り乱れる、これまで以上にドロ沼な選挙戦が繰り広げられるのではないかという期待もあった。

しかし、現在話題になっているのは、過激な発言で何度も炎上してきた片山さつき参院議員や、安倍首相のメールマガジンの記事が「名誉毀損にあたる」として現役総理の提訴を決めた菅直人元首相など、ネット選挙解禁前から有名だった政治家ばかり。盛り上がりは、明らかに局所的なものだ。

選挙関連データを扱うリサーチ会社でアドバイス業務を行なっている経験から、今年1月に本誌特集記事で「ネット選挙が解禁しても、すぐには大した変化はない」と予言していた投資家・ブロガーの山本一郎氏はこう語る。

「もともと期待していませんでしたが、事前の予想よりさらにショボかった。選挙戦略という面では、『ネットは扱いが難しい』というのが正直な印象です。ウェブを使えない候補者も多いし、後援会でもそれは同じですから、結局は『あまりネットは使わないでいきましょう』となりがち。青年部レベルですら、選挙違反を避けながらウェブを活用してどう候補者を応援したらいいか、ほとんどわかっていないのが現実です」

2005年の「郵政選挙」で一躍時の人となり、衆参両方の選挙への出馬経験を持つ元衆議院議員の杉村太蔵氏は、候補者の本音をこう表現する。

「選挙活動において、ネットはあくまで副次的なものでしかないと思います。特に各選挙区で戦う場合、例えばツイッターのフォロワーのうち何人が地元の人なのかわからない。やはり街頭に出て、握手して、名前を連呼するという選挙の基本は変わりません。100回のつぶやきより、1回の握手のほうが断然意味がある」

その結果、ほとんどの候補者がSNSのアカウントを持ちながらも、「今日は●●で街頭演説です」などと毒にも薬にもならないことを言うばかり。しかし、ツイッターやフェイスブックへの書き込みは大した労力ではないはずで、街頭演説の告知とか活動報告だけでなく、政策について熱っぽく語る候補者がいてもいいのでは……。

「選挙の鉄則として、意見が分かれるような個別の政策課題について、自分の見解をはっきりさせすぎるのは得策じゃないんです。反対意見を持つ有権者の票を完全に失ってしまうので、そういう人は意外と選挙に弱いことが多い。増税にしろ、憲法改正にしろ、原発にしろ、どんな意見の人にも自分に投票してほしい。これが候補者の本音です」(杉村氏)

前出の山本氏も、候補者の最適戦略についてこう語る。

「ネット上での発言は、とにかくネガティブ方向に広がりやすい。各候補者はその影響を受けないように、ネットでは具体的政策について語らないのが一番です。ツイッターでも『今日は子供とテニスに行きました』とか、そういうつぶやきのほうがよほどポジティブに受け止められますよ」

しかし、例えばツイッター上で一般ユーザーから政策について質問を受けた場合は?

「デリケートな問題であればあるほど、うまくかわすテクニックが必要ですね。『国民の中で話し合って決めていくしかないですね』など、どうとでも取れる言い方で、とにかく色を出さない。だから日本維新の会の橋下徹共同代表のような“言い切る人”は目立つわけですが、本人はよくても、周辺は発言に振り回されてしまう。橋下氏のツイッターでの過激発言は、党にとっては完全にマイナスに働いています」(山本氏)

つまり、饒舌にネット上で発言することは、候補者たちにとってマイナスに作用する可能性のほうが高いのだ。ネット選挙を活用するどころか、尻込みしてしまうのも仕方のないことかもしれない。

(取材・文/木場隆仁)

ネタりかより引用しました。