家族の崩壊と再生 山田太一ドラマ「時は立ちどまらない」22日夜放送

被災者の本音、葛藤描く

 ベテランの山田太一氏(79)が脚本を手がけたドラマ「時は立ちどまらない」が22日午後9時から、テレビ朝日系で放送される。東日本大震災がなければ結婚を機に結びつくはずだった2つの家族の、崩壊と再生を描いた作品。山田氏は「報道やドキュメンタリー番組に描かれなかった被災者の葛藤や、言えなかった気持ちを書きたかった」と話している。(本間英士)

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 東北の海沿いの街で生活していた浜口家と西郷家。震災により、漁業を営む浜口家は新郎を含む3人が亡くなり、家も漁船も失った。一方、高台に住んでいた西郷家は被害を受けなかった。ドラマでは、両家がすれ違いや対立を経て、再生する姿を丁寧に描いている。

 かねて震災をテーマにしたドラマを作りたいと考えていた山田氏は、「事実」と報道・ドキュメンタリー番組との間のずれを感じていたという。

 「自分が悪いわけではないのに、他の人に助けてもらうことへの無念さや屈辱。報道やドキュメンタリー番組だとそういうことは言えないが、人間だからそうした感情はあるはずです」

 浜口家の祖父、吉也(橋爪功)は、西郷家にこう語って援助を拒絶する。

 「こっちはなんにもない。ありがとうというしかない。網もロープも船も(中略)、女房に嫁に孫までいない。それ、俺のせいか、息子のせいか」

西郷家の家主、良介(中井貴一)は、「助けたい」という気持ちと、自分たちは被害を受けなかった後ろめたさとの間で揺れ動く。追い詰められた良介は、「津波に遭ったと聞けば、誰にでも優しぐしなぎゃなんないのか」と漏らしてしまう。

 山田氏は「ドラマはフィクション。だからこそ口には出しにくい本音や、心の葛藤も描くことができた」と語る。

 題名の「時は立ちどまらない」の意味について山田氏は、報道などで「私の時間は震災が起きたときのまま止まっています」と答える被災者が多いことを指摘した上で、「それは真実だと思う。ただその一方で、時間はそのままでいることはない。それは残酷かもしれないし、幸福なことなのかもしれない。とにかく、時は立ち止まらないということを言いたかった」と説明する。

 今後、震災をテーマにした作品については「僕はあと少しで80歳になるので、若い人に作ってほしい。例えば、震災がなければ出会わなかった人もいる。いろいろな角度から震災を描いてほしい」と語った。

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【プロフィル】山田太一

 やまだ・たいち 昭和9年、東京都出身。松竹入社後、木下惠介監督に師事。40年からフリーの脚本家となり、「男たちの旅路」(51~57年)、「岸辺のアルバム」(52年)、「獅子の時代」(55年)、「ふぞろいの林檎(りんご)たち」(58年~平成9年)など代表作多数。昭和60年に菊池寛賞、63年に小説「異人たちとの夏」で山本周五郎賞。昨年12月に木下惠介向田邦子らの思い出をつづったエッセー集『月日の残像』(新潮社)を出版した。

 

msn産経ニュースより引用しました。