コンピュータソフトから生活用品まで、違法コピー天国・ベトナム

日本で15年間の編集者生活を送った後、ベトナムに渡って起業した中安さん。今回は、プロも騙される「コピー天国」ベトナム・レポート。日本人の感覚とはまったく異なる、その実態とは? 

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● ソフトウェアの違法率は世界平均の2倍近く

 「いや、どこから見ても本物のiPhone5だったんですけどねえ。すっかりだまされました」
 と頭をかくのは私の友人・Fさん。筐体は本物だったらしいのだが、中身が偽物にすり替えられていたのだそうだ。購入してしばらくしてから気がついたが、もちろん交換などはできない。Fさんは、彼自身、携帯電話に関連する仕事に従事しており、スマートフォンに関しても決して素人ではないのだが、それでも偽物をつかまされてしまったのだ。

 巷でもよく知られているとおり、ベトナムは「コピー天国」である。

 ソフトウェア業界団体のビジネス・ソフトウェア・アライアンス(BSA、本部ワシントンDC)がまとめた、「第9回世界ソフトウェア違法コピー調査」によると2011年のベトナムの違法コピー率は81%。アジアではインドネシアの86%に次いで高く、世界平均の42%の2倍近い。2003年度の同調査で は、ベトナムは92%と、中国と並んで不名誉な世界ナンバーワンを獲得している。年々、状況は改善されているとはいえ、まだまだ違法率は高い。

 そもそも町のコンピュータショップに行っても、正規版のソフトを探すほうが難しい。パソコンを購入すると、何も言わなくても、最新のOSはもちろん、 Microsoft Office(マイクロソフト・オフィス)、Adobe(アドビ)のInDesign(インデザイン)、Photoshop(フォトショップ)、 Illustlator(イラストレーター)などがインストールされている場合が珍しくない。もちろん、全部、違法コピーである。

● 本も音楽CDも映画DVDもバイクも、何でもコピー商品がある

 違法コピーは、コンピュータ関連の商品だけではない。書籍は新刊が出ると、その数日後には、本物と見分けがつかないくらいそっくりの偽物が、書店の店頭に並ぶ。価格は偽物のほうが安い場合が多いから、当然、そちらのほうがよく売れる。

 音楽用CDも違法コピーが多い。町の中のちゃんとしたCD屋さんで、ちゃんと箱に入ったCDを買って、家で封を切ったらケースの中には普通のCD-Rが入っていたこともある。

 映画やテレビドラマのDVDも、あっと言う間に違法コピーが店頭に並ぶ。映画だと劇場公開の前に、DVDが店頭で発売されることも珍しくない。日本の連続ドラマも、早ければ翌週にはDVDが店頭に並ぶ。だから最新のドラマも、見逃さない。

 今は見なくなったが、以前は「HONDA」のコピーである「HONGDA」というバイクも、ちょくちょく見かけた。見なくなったからといって、コピーのバイクがなくなったわけではない。むしろ逆で、堂々と「HONDA」と書かれた偽物のホンダが町中を走り回っている● そもそも「本物」と「偽物」の定義が違う! 

 こんなこともあった。私がバックパックを買いに行ったときのことである。ある有名なアウトドアメーカーの商品が店頭に並んでいた。それにしては値段が安い。日本での小売価格の何分の一かなのだ。

 お店の人に
「これ本物ですか? 」
 と尋ねると本物だと言う。値引き交渉をしようと思い、
「もうちょっと安くならない? 」
 と値段を提示すると、
「その予算だったら、本物は買えないねえ。偽物だったら大丈夫だけど」
 と、「本物」と区別がつかない品物を出して来てくれた。値段は2割近く、偽物のほうが安い。しかし偽物はしょせん偽物で、品質が落ちるからお勧めしないと店の人は言う。

「ところで、こっちの本物は、輸入しているの? 」
「いや、メイドインベトナム
「へ?  この会社はベトナムにも工場があるんだ」
「そんなものないよ。これはウチの工場で作ったんだ」
 と言う。

「それってコピー商品、つまり偽物っていうことじゃない? 」
 と聞くと、
「滅相もない。こっちは、本物の製品を見ながら、それとそっくりに作った正真正銘の本物さ。だからやっぱり、品がいいんだよ」
 と驚くべき答が返ってきた。

 じゃあ偽物というのは、何が違うのだろうと思って尋ねると、「本物の製品をお手本にせずに作り、ロゴだけくっつけたもの」だそうだ。「本物」と「偽物」の定義自体が、ここまで違うのかと驚いた。

● 著作権なんてどこ吹く風

 私の会社が被害を受けたこともある。ある日本食レストランが、弊社の発行物に掲載されている地図をスキャンして印刷し、販促ツールとして配布していたのだ。それを見つけた私は、とりあえず事情を聞きにいくことにした。

 そうすると、お店のベトナム人オーナーが出てきて、
「御社の出している地図をスキャンして使いましたが、何か問題ですか? 」
 と真顔で質問されてしまった。そこで、これは著作権の侵害にあたると説明したところ、
「御社の地図に比べると、ここの水色の濃さが少し違う。まったく同一ではないから、コピーしたとは言えない」
 と言う。

 私がオーナーとやりとりしていると、店の奥から、日本の大手広告代理店に勤務していたという日本人男性が出てきて、
「中安さん、そもそもね、地図には著作権なんて存在しないですよ」
 と開き直られてしまった。

 「それでも今後、この地図のデータを使うことは避けて欲しい」
 とお願いすると、
「じゃあ、私たちは一から地図を作り直さなければならない。その費用はあなたが負担してくれるんですよね」
 と、予想もしない反応。最初から最後まで話はかみ合わず、結局、話は物分かれに終わってしまった。

 このようにコピー商品・違法コピーの話をし出すとキリがないのだが、もちろん、年々、状況は改善されつつある。今後は、ベトナムオリジナルの良い商品が 出てきて、逆にベトナムがコピーされる側に回るくらいになれば、著作権に関する意識も高くなり、このような状態も解消されていくのだろう。

 
(文・撮影/中安昭人)

筆者紹介:中安昭人(なかやす・あきひと)
1964年大阪生まれ。日本での約15年の編集者生活を経てベトナムの大手日系旅行会社・エーペックスベトナムが発行する「ベトナムスケッチ」(現地の日 本語フリーペーパー)の編集長として招かれ、2002年7月にベトナムへ移住。その後独立し、出版および広告業を行なう「オリザベトナム」を設立。 2000年に結婚したベトナム人妻との間に8歳になる娘が1人おり、ベトナム移住以来、ホーチミン市の下町の路地裏にある妻の実家に居候中。

yahooニュースより引用しました。