ネットで「不審者」狂想曲 夜道で泣く女児を保護はNG?

夜道に1人で泣いている女児がいる。だが、うっかり声をかけると不審者扱いされて通報されてしまうかも-。そう懸念し、女児に話しかけずに警察への連絡にとどめた男性の対応をめぐって、ネットで大激論が交わされている。「安全」な社会を希求するあまり、失ったものがあるのではないか。議論は、日本社会のあり方にまで発展をみた。

 きっかけとなったのは、ある男性が8日にツイッターへ投稿した「体験談」だった。

 それによると、男性は前日の午後8時ごろ、小学1、2年生ぐらいの女の子が住宅街を泣きながら1人で歩いているのを目撃。迷子と思い声をかけようとしたものの、不審者扱いを危惧して思いとどまり、代わりに110番通報した。応答した担当者から最寄りの交番まで女児を送り届けるよう頼まれたが、誤認逮捕などのトラブルに巻き込まれるリスクが皆無ではないと考えて断り、早く警察官が来るようにと促してその場を立ち去った、という内容だ。

 ◆慎重対応に賛否両論

 この男性のツイートに対して、大量の意見が寄せられた。「思慮深くそれでいて心優しいゆえの対応ですね」「子供も知らない人から声をかけられた時には、という教育を受けているのだから、見知らぬおっさんが夜に声をかけたらこの場合起こりうる可能性を考えるのは当然。むしろ通報したことを尊敬する」と慎重な判断への支持が相次ぐ一方で、「普通に声かけて普通に交番連れていけよ」「単に被害妄想起こした人がひとりで騒いでたってだけの話」など、厳しい批判も少なくない。

 なぜ、男性はこれほど女児への接触をためらったのか。背景として複数の人が挙げたのが、多くの自治体や警察が提供する不審者情報配信サービスの存在だ。「毎日のように届く『不審者情報メール』を見ていると確かにこういう不安にもなる」。その中には、子供に声をかけただけで「声かけ事案」として不審者扱いされるケースもあり、ネットで物笑いの種となることも。「アホみたいな『声かけ事案』のせいでこうやって実際、必要な『声かけ』が出来なくなった人がいるよ、という事例として重要」(はてなブックマーク

 ◆安全求め「信頼」喪失

 「体感治安」の悪化が叫ばれ、地域の子供を守ろうとする活動も盛んな当節。だが、こうした意識の高まりは「知らない人」への不信感の醸成と表裏一体ともいえる。「子供は地域で育てる」とのかけ声の一方で、前提となる密接な地域社会は年々縮小している。近くに住む人でも交流がなければ赤の他人であり、うっかりすれば子供にとっては「不審者」と映る。そんな状況下では、たとえ善意であろうと他人の子供に気軽に声をかけるわけにはいかなくなるのだろう。「『安全』と引き換えに『信頼』が失われたという社会事象の一例」(ツイッター)という、皮肉な指摘もあった。

 ちなみに、発端となった男性の後日談によると、その後警察から女児が無事保護されたとの連絡があったという。だが「再度同じような子を見かけても、もう通報する勇気はないかもしれない。子供が泣いているのをたすけるという単純な行為がこんなに大変なものだとは思わなかった」とも。事実だとして、ニュースにもならない小さな事件ではあるが、現代日本社会の一断面をはっきり映し出した出来事だった。(磨)

 【用語解説】日本の体感治安

 内閣府が平成24年に実施した「治安に関する特別世論調査」によると、過去10年間の日本の治安について「悪くなったと思う」「どちらかといえば悪くなったと思う」との回答は全体の8割以上を占め、治安に対する国民の不安は強い。一方、刑法犯認知件数は10年連続で減少するなど、統計にあらわれた治安情勢は改善傾向を示している。

yahooニュースより引用しました。